FEELING ARCHIVE / 懐かしい
15:19 / 引き出し · 春捨てられないのは、物じゃなくて買ったときの会話。
百円くらいのキーホルダーに、二人ぶんの記憶がついている。
引き出しの奥から、小さなキーホルダーが出てきた。観光地に行ったとき、どちらが変なデザインを選べるか競って買ったやつ。金具が少し曲がっている。
片付けていた引き出しには、使わない充電ケーブルと、インクの切れたペンが三本あった。底の方に、小さなキーホルダーが引っかかっている。金具は少し曲がり、塗装は一部剥げていた。何のキャラクターなのか分からない変な顔をしている。旅行の写真ならクラウドにあるのに、この顔だけは引き出しに残っていた。
A SMALL SCENE / 創作会話
あなたこれ、絶対いらないでしょ。
相手いや、見て。この顔。
あなたほんとだ、ひどい笑
相手じゃあ一個ずつ買おう。
創作した会話です。実際の誰かの発言や作品の引用ではありません。当時は冗談だった。今は笑った理由の方を覚えている。
WHAT WAS DIFFERENT
あのとき、何が残ったんだろう。
買ったときは二人で笑っていて、『こんなの絶対いらない』と言い合った。百円か二百円だったと思う。どこで買ったか正確に思い出せなくても、相手が商品棚の前でその顔を見つけて、妙に真剣に選んでいたのを覚えている。役に立つものは他に山ほど買ったのに、ここに残ったのは何の役にも立たない物だった。
大切な思い出だからずっと保管すべきなのか、それとも片付けの邪魔なら捨てるべきなのか。どちらかを正解にすると、思い出の価値まで判定している気がしてくる。物が残っていることと、今の気持ちは同じではない。ただ、机の上に置くと、あの人と笑った時間が少し戻る。今日はまだ、判断できなくていい。
WHY THIS STAYS
忘れられないのは、
こういうところ。
価値のある物だから残したのではない。買うか迷った三十秒に、そのときの相手がいる。処分できない自分を責める必要もないけれど、ずっと持っている義務もない。
片付けを再開したのは、しばらくしてから。キーホルダーはもう一度引き出しに戻した。
一度机の上に置いて、部屋の反対側から見てみた。相変わらず変な顔だった。二人で選んだときより色が褪せているし、金具も直っていない。その安っぽさが、かえって当日の楽しさを思い出させる。写真を探そうとして、やめた。写真にないところを思い出したかった。キーホルダーだけを引き出しに戻した。
IN YOUR OWN STORY
もし、似た日が来たら。
二人の思い出の品を残すなら、小さい箱に一つだけ入れておく。つらくなるなら見えないところへ移してもいい。
別れた相手の持ち物や写真を公開して、相手を困らせることは避ける。
金具は曲がったままで、顔だけが妙に笑っている。
架空の場面。特定の実話・SNS投稿・映像作品を基にしていない。
イメージ写真: Long Chung / Unsplash。写真は創作された出来事そのものを撮影したものではありません。
気持ちから探し直す