FEELING ARCHIVE / 懐かしい
07:41 / 通勤電車 · 冬もう会っていない人の曲が、突然流れた。
一駅ぶんだけ、昔の車内に戻った。
朝の電車でシャッフル再生をしていたら、何年も聴いていない曲が流れた。次の曲に飛ばすつもりで画面を開く。でも、その曲を教えてくれた人の名前が先に浮かんだ。
朝の車内には、ドアが閉まる前に駆け込んだ人の息が残っている。いつものプレイリストを適当にシャッフルしただけだった。突然、聞き覚えのあるイントロが流れる。イヤホンからの音量は小さいのに、一瞬で別の日の景色が近づいた。画面に表示された曲名は当時も覚えられなかった名前だった。
A SMALL SCENE / 創作会話
あなたこれ、好きなんだよね。
相手全然知らなかった。
あなたサビだけでも聴いて。
相手……あ、ほんとだ。いいね。
創作した会話です。実際の誰かの発言や作品の引用ではありません。当時はただの曲だったのに、あとから人の記憶になった。
WHAT WAS DIFFERENT
あのとき、何が残ったんだろう。
あの人はサビの前に『ここが好き』と言っていた。自分は違いが分からなくて、二回目に聴いたときやっと頷いた。その記憶だけが、イントロから先回りしてくる。隣の席は空いていて、車窓には見慣れたマンションしかない。こんなに普通の朝に、もう会わない人の声を鮮明に思い出せることが少しおかしい。
曲を聴けるようになったのが未練なのか、もうただの音楽になった証拠なのかはわからない。今どうしているかを調べるつもりも、連絡する予定もない。好きだった一曲に、好きだった人の記憶が偶然くっついているだけ。忘れることが前に進むことだとしたら、この曲を覚えている自分をどう扱えばいいのだろう。
WHY THIS STAYS
忘れられないのは、
こういうところ。
曲が始まると、当時の服や道まで浮かんでくる。それで連絡を取り直す必要はない。思い出は、ときどき勝手に再生されるものだから。
聴き終わったら、次の駅で人がたくさん乗ってきた。画面を消して、いつもの朝へ戻った。
次の駅で人が乗り込んできて、片方のイヤホンがコートに引っかかった。曲はちょうど終わるところだった。画面を見たら、いつもの朝と同じ時間。別の曲が流れ始め、目の前に吊り革が揺れている。前の曲をもう一度聴くこともできたけれど、しなかった。あの人の声だけ、少し後ろの方に残った。
IN YOUR OWN STORY
もし、似た日が来たら。
一緒に聴いた曲をプレイリストに残すのもいい。誰かと距離を置いたあとなら、聴きたくないときは消して構わない。
懐かしさだけを理由に相手の現在の生活へ踏み込まない。連絡する・しないは別の判断。
その曲の最後の音だけ、少し聞こえにくかった。
架空の場面。特定の実話・SNS投稿・映像作品を基にしていない。
イメージ写真: William Dmytrow / Unsplash。写真は創作された出来事そのものを撮影したものではありません。
気持ちから探し直す