FEELING ARCHIVE / 切ない
21:46 / 帰り道 · 冬さよならを言う前の、やたら長い横断歩道。
信号が赤になった。少し得をしたような、悲しいような。
信号が点滅し始め、走れば渡れそうだった。でも二人とも走らなかった。赤く変わった横断歩道のこちら側で、昼間から続いていた話の最後だけが残っている。
歩行者信号は、青の点滅が思っていたより早かった。道の反対側には閉まったパン屋があって、ガラスに今の二人が少しだけ映る。さっきまで寒さを感じなかったのに、立ち止まると足首が冷える。相手はマフラーを直した。何か話そうかと思ったときには、もう信号は赤になっていた。
A SMALL SCENE / 創作会話
あなたこれ、渡れてたね。
相手うん、ほんの少し前ならね。
あなた……寒くない?
相手ちょっと。でも、大丈夫。
創作した会話です。実際の誰かの発言や作品の引用ではありません。信号を待つ時間だけ、今日が少し長くなった。
WHAT WAS DIFFERENT
あのとき、何が残ったんだろう。
走れば渡れたはずなのに、二人とも走らない。それだけのことを、帰ってから何度も思い出した。特別な言葉があったわけではない。寒いね、と言ったら、少しだけ近くに寄ってもらえた気がした。でもそれはコートの幅かもしれないし、歩道が狭かっただけかもしれない。どちらであっても、あの数十秒が好きだった。
目が合った回数や肩の距離から、相手の気持ちに結論を出すことはできない。自分がこの帰り道を惜しく思っていたことと、相手がどう感じていたかは別。だから無理にもう一駅歩こうとは言わなかった。もし次も会えるなら、そのときの二人がまた話をすればいい。今決めないまま残してよいことがある。
WHY THIS STAYS
忘れられないのは、
こういうところ。
もう帰るとわかっているから、何を話しても少し特別に聞こえる。相手の表情から気持ちを勝手に決めることはできない。ただ、同じ赤信号を待ったことだけは確か。
あの交差点を一人で通ると、青になるまでの秒数が妙に短い。
次の月、同じ交差点を通った。隣には誰もいなくて、点滅している青を見たら自然に足が速くなった。渡り切ってから気づく。あの日は走らなかったのに。角のパン屋も相変わらず閉まっていた。信号ひとつで思い出せる人がいるというのは、少し不便で、ちょっと嬉しいことでもあった。
IN YOUR OWN STORY
もし、似た日が来たら。
別れ際、伝えそびれていた感想は短く話せる。「今日、楽しかった」。次の予定を急いで決める必要はない。
帰り道を長引かせるために故意に遠回りさせない。相手が帰りたいときはそこで終える。
向かいの歩行者用信号が、青になった。
架空の場面。特定の実話・SNS投稿・映像作品を基にしていない。
イメージ写真: MChe Lee / Unsplash。写真は創作された出来事そのものを撮影したものではありません。
気持ちから探し直す